1「職業」を表す言葉
- 例会では、「職業を表す言葉は?」という問いに対し、”job” など職に関連する単純な言葉が連想されました。
- 答えは「calling」でした。
- 辞書(大修館GENIUS)によると、calling は「天職 (vocation), 職業 (→occupation)」と掲載されています。その他の意味として、「強い希望、招集、神のお召し、呼ぶこと」があると紹介されています。
- この言葉には「天職」「使命」という意味が含まれるようです。
- 単語を体験的に覚えることにつながり、深く頭に残る内容でした。
- 北原先生の今の仕事や、T先生の仕事は、”job” や “occupation” のような無機的な表現よりも、「calling」がふさわしいと感じられたようです。
- 教職も “calling” だと感じており、楽しくて辞めたくないという意見もありました。
2じゃれマガ
- じゃれマガカルチャーのテーマは「蛍(fireflies)」でした。
① 1分間黙読させる。かかった秒数をメモさせます。
② 読み終わるとQに対する答えの部分にアンダーラインをさせる。
③ 1分間経ったらQを読み上げる。生徒は自分の答えを言います。この時キーワードさえ合っていれば正解とします。
④ 教師により範読。
⑤ 下線部について質問し、生徒は答える。なるべく日本語の使用を控えます。
⑥ 書かれている文化が日本文化の場合、それについてペアで会話する。(これは即興発話の練習になります)。
- 活動内容は、「Have you ever seen fireflies? If yes, where did you see them?」という問いかけに、ペアや3人で順番に答えるというものでした。
- また、「ホタル」を自分の経験を交えて外国人に説明する練習も行われました。本文の語句や表現を使っても良いとされました。
- 記憶を掘り起こし言語化する過程は、スピーキング活動に不可欠なことだと感じられました。
- このような「五感」に問いかける発問や「記憶を呼び覚ます」発問は良いと評価されています。
- “Have you ever seen~?” の用法を、このような場面で使うのだと実感できます。
- じゃれマガを通して、北原先生が指摘する語彙表現や文法項目の確認に納得したり、自分の甘さを感じることがあったようです。過去完了の用法についての説明などが例として挙げられています。
- 日本の季節に応じた伝統や文化(蛍)について、知っていて説明できるようにしておくべきだと改めて感じられました。
- じゃれマガカルチャーの内容と同様に、異文化を学ぶ面白さや自国文化の再認識につながるという感想もありました。
- じゃれマガの実践方法として、黙読、下線引き、質問への応答、教師による範読、下線部についての質問、文化に関するペア会話などが紹介されています。これだけでもかなりの発話練習になると述べられています。
3「多言語国家スイスに暮らして」
(1)T先生の講演について
T先生による「多言語国家スイスに暮らして」というテーマの講演が行われました。T先生は元スイス公文学園事務長です。講演内容は、スイスの歴史、言語、政治、社会、ビジネス、衣食住など幅広いテーマに及び、「ハイジとチョコレートだけではないスイス」を知る機会となりました。41ページにも渡るパワーポイントをご準備くださり、写真や図を示されながら詳しくお話しくださいました。講演時間は2時間近くにも及びましたが、聞き足りないほど濃い内容でした。心地よい声量で、小川が流れるように話された。冒頭のフランス語、イタリア語、英語での挨拶は、エレガントで魅力的だったと評されています。講演は非常に好評で、聴講者からは「へえー」と勉強になり「くすっ」と笑える生きた情報が満載だったという感想や、生徒にも聞かせたいと思った聴講者が実際に学校に招く手配をしたというエピソードも紹介されています。講演後、たくさんのメモを残したという報告もあります。 T先生は北原先生の2年上の大学の先輩で、岐阜県の旧家に生まれ、高校時代にAFS留学を経験されています。大学卒業後は東京銀行、ドイツ銀行東京支店を経て、2002年にスイス公文学園事務長の打診を受けられました。T先生は現在もスイスと繋がりがあり、年に2回、合計90日間ほど滞在されているそうです。
(2)スイスの概要と多様性:言語、国土、人口、州
スイスは多言語国家です。公用語はドイツ語、フランス語、イタリア語の3つです。これらに加え、ラテン語に近いロマンシュ語も存在します。言語の使用率は、ドイツ語が約62.1%、フランス語が約22.8%、イタリア語が約8%、ロマンシュ語が0.5%です。隣の州では違う言葉を話す場合があるとのことです。スイスのドイツ語はドイツのドイツ語とは全く異なり、数の言い方も違うそうです。スイスのフランス語もフランスと少し違うだけですが、言語はその地に根付いて変化するのだと感じられました。言語圏によって食文化も異なり、特徴があります。また、言語によって人の気質が異なるとも言われています。 スイスの国土は日本の九州と同じくらいの大きさで、人口は約900万人で神奈川県とほぼ同じです(神奈川県は約922万人)。 スイス連邦には26の州(カントン)があり、それぞれが自治権を持っています。法律、税制、教育制度、祝日なども州ごとに異なります。
(3)国際性、社会風土
人口の約27%が外国人であり、4人に1人が外国人という多文化への理解が高い風土があります。日本への印象は良く、技術力や日本車への信頼が高いようです。スイス人は日本に憧れがあるという意見もあります(経済、自動車)。 国際結婚が多いのは傭兵時代の名残りで、人種差別が少ないのも特徴です。人種間のイメージとして、ドイツ語圏はフランス語圏を「いい加減」、フランス語圏はドイツ語圏を「融通が利かない」と言うといった話もありました。 移民を労働力の確保のために受け入れています。戦争や内戦で国を逃れた難民も受け入れており、ウクライナからの難民も10万人受け入れています。難民は働くことができないとされています。難民・移民受け入れにかかる費用などに関する疑問も呈されています。 しかし、外国人への滞在許可は厳しく、90日以上は許可が必要で、スイス人の雇用を守るための国策があります。外国人が国籍を取得するのも難しいとのことです。銀行でも外国人だと余計にお金がかかることもあるそうです。難民・移民を受け入れる一方で、外国人が住むことに対して厳しいという点に疑問を感じた聴講者もいます。 スイス全体の宗教の割合は、無宗教34%、カトリック32%、プロテスタント20%、イスラム6%、その他7%で、最近はイスラム教徒が増えているそうです。異文化を学ぶ面白さや、自国文化の再認識につながる内容だと評されています。
(4)仕事と働き方
スイス人は日本人同様によく働くとされています。オフィスは朝8時から17時がワーキングタイムです。しかし、残業はなく、上限が設定されています(週45時間)。労働時間は守られています。 労働人口は約460万人で、うち女性が210万人です。全員正規雇用ですが、労働人口の37%がパートタイムです。失業率は低い(2.45%)です。有給休暇は4週間ですが、20歳以下は5週間です。全国共通の法定祝日は建国記念日(8月1日)だけです。
(5)給与、物価、税金
平均給与は月約114万円(6500スイスフラン)です。教員の初任給は月約149万円(チューリッヒ州)ですが、税金、社会保険、家賃などを差し引くと手取りは半額ほどになります。アルバイトの時給は約4400円です。 物価は高く、外食のランチは平均4400円と非常に高いです。家賃は3LDKで約26万円から44万円です。消費税は8.1%ですが、食料品、医薬品、書籍などは2.6%です。物価が高いことにも意味があるという視点も示されました。 税金は高いですが、「ゆりかごから墓場まで」と言われるように福祉が充実しているそうです。
(6)食文化と飲み物
食べ物はじゃがいもとチーズが基本です。チーズフォンデュの具材はじゃがいもとパンだけで、野菜などを入れるのは日本だけだそうです。フォンデュにはチーズ、オイル、シノワーズ(しゃぶしゃぶ)の3種類があるそうです。ラクレットやソーセージ(寒い時期の保存食)なども紹介されています。昼食は昔は1日のメインで、家族が帰宅して食べていましたが、現在は夕食をチーズやハムなどで簡単に済ませる家庭が多いそうです(ハイジの世界と同じ)。 パンは文化圏で異なり、フランス語圏はバケットやクロワッサン、ドイツ語圏はベーグルやドイツパンを食べます。朝食はパンとコーヒーや紅茶、ミューズリーなどが一般的です。肉は牛、豚、鶏、猪、ラム、馬、七面鳥、うさぎ、魚は鱈、サーモン、スズキ、マスなどを食べるそうです。各地方の特産品としてソーセージや干し肉がよく使われます。 ワインは自国内でほとんど消費され、国外にはあまり出回りません。スイス人は「体にいい」赤ワインが好きだそうです。珍しい飲み物として、ビールを炭酸水で割ったパナシェや、チーズを作る過程で出る副産物の乳清が原料のリヴェラ(子どももよく飲む国民的炭酸飲料)が紹介されました。 チーズフォンデュとビールは相性が悪く、お腹の中でチーズが固まるため厳禁とされています。ホームパーティーを盛んに行いますが、その際の飲酒運転は自己責任とのことです。ミューズリーはスイス生まれです.
(7)自国の保護政策と国民意識
自国の産業や雇用を守ろうとする国策がとても大切だと感じられたという意見があります。物価が高いことにも意味があり、政治家は自分たちの仕事がある傍らで政治をするくらい政治のことを考えているとのことです。金と政治の話題が出ないのも納得できるそうです。多言語国家における共存のための仕組みと国民の意識が高いことから、学ぶべきものが多いと感じられた例会でした。自分の国は、全員で自分たちの力で守り、自治も守るという意識が高いです。
(8)政治と永世中立、軍事
政治に関しては、下院と上院があり、総選挙は4年毎に行われます。連邦内閣は7名の閣僚で構成され、任期は4年です。閣僚は多言語を話せる人が多いです。大統領は閣僚から選出され、任期1年の持ち回りで、アメリカのような大きな権限は持っていません。2025年の大統領は女性のカリン・ケラー・ズッターさんです。政治家は、自分で資産やほかの仕事を持っており、その傍らでボランティアのような形で政治家を兼任しているという見方もあります。金と政治の話題が出ないのはこのためかもしれないと示唆されています。政治と女性に関する話もありました. スイスは永世中立国ですが、自衛のための武力を保持しており、国民皆兵制をとっています。永世中立は1815年のウィーン会議で認められました。職業軍人は約4000人、徴兵制による予備兵は21万人です。20歳以上の男子は18~21週間の兵学校での教育を受け、300日の兵役義務があります。徴兵期間中も、勤務しているところから給料が全額支給されます(国から会社への支給は8割)。兵役を通じて人脈が形成され、生涯役立つこと、軍隊で地位が高いと民間でも出世することが述べられています。山中に5000人を収容できる軍事施設もあります。軍事施設は縮小に伴い民間がビジネスに再利用している例もあるそうです。米ソ冷戦時代に法律で各家庭に地下核シェルターの設置が義務付けられていました。現在は倉庫として利用されている例が多く、高山先生のご自宅ではワイン倉庫として使っているそうです。冷戦終結後は不要になったとも述べられています。 直接民主制も特徴で、10万人の署名を集めたイニシアチブで発議権が生じます。最も小さな州であるアッペンツェルでは、毎年州民総会が開かれ、州の政治課題や議員・判事の選出を挙手で決めるという直接民主制の原点が見られます。
(9)教育制度
教育制度は州ごとに異なりますが、統一に向かっているそうです。義務教育は11年間(4歳~15歳)です(幼稚園2年、小学校6年、中学3年)。高校進学では、約3分の1が普通高校(ギムナジウム、4年)へ進み、約3分の2が職業高校(3年)へ進みます。中学卒業時点で進路が大きく異なる点が指摘されています。公立が多く、授業料は無料です。大学進学率は20%程度です(日本は67%)。大学進学率が案外低いことに驚いたという感想もあります。職業技術取得に重きが置かれており、職人が尊敬される文化があります。著名な大学として、アインシュタインの出身校である連邦工科大学チューリッヒ校が挙げられ、創立以来22名のノーベル賞受賞者を輩出しており、学費は無料とのことです。学校の休みは、夏休み(8週間)、秋休み(1週間)、クリスマス休暇、スキー休暇、復活祭などがあり、お国柄が出ています。秋休みはぶどうの収穫に関連すると紹介されています。
(10)産業と経済
産業革命以前は「岩戸氷と雪の貧しい国」で「血の輸出」と言われた傭兵の出稼ぎが盛んでした。産業革命以降は、繊維、染色、時計産業(日本のクオーツに負けて高級志向へ)が盛んになり、現在は宝飾、観光、教育業が盛んです。金融業、再保険(「保険の保険」で世界トップ)も重要な産業です。資源が少ない国は技術やヒトで勝負するしかない点で日本と似ているが、島国で鎖国だった日本には「血の輸出」はなかった点が異なるとの考察があります。ホテル業も有名で(リッツカールトンなど)、ホテルマン養成学校があり、その資格は世界で通用するそうです。観光業は1850年代にイギリス人がアルプスの素晴らしさを伝え、ホテル業の夜明けと言われています。 税制の優遇を図り、大手多国籍企業(ネスレ、IBM、Google、デュポン、キャタピラー、日本たばこ、日産、サンスターなど)を誘致しており、これがスイス経済を活気づけているとされています。相続税がかからないため、お金持ちは代々お金持ちであり、そのような家はプライベートバンクが資産管理やアドバイスを行います。
(11)住まい、生活文化、交通、その他
物価が高いため、多くの人が昼休憩に家に帰宅して食事をとります。そのため昼の休憩時間が長い傾向があります。お店は8時から18時半まで営業しており、閉店時間は日本より早く、昼は12時半から15時まで閉店していることもあり、日曜は定休日です。最近は観光地で24時間営業も見られるようになったそうです。 住まいについては、都市部では高額で手が届かず、マイホームを所有しているのは約3分の1です。集合住宅が多く、夜22時から朝6時までは物音を立てないという周りに気を使うルールがあります。アパートでは洗濯は地下のコインランドリーで行うそうです。住宅ローンは利子だけ支払い、元本は返済しなくてよいという特徴もあります。家の中で靴を脱ぐ習慣があります。自宅に呼んで会食するホームパーティーが多いです。 高齢者はみんな元気で、年齢を尋ねたり気にしたりせず、「マドモアゼル」より「マダム」と呼ばれる方が喜ばれるそうです。スイス人はよく歩くと言われています。スキーは一生楽しむスポーツです。国民全体の「健康寿命が長い」のはこうした習慣のおかげかもしれないとされています。 お墓は市町村の所有する土地を借りる形になり、20年で継続か放棄か決めます。継続の場合は継続料金を払い、放棄の場合は掘り起こして次の人が使います。スイス人は「先祖代々の墓」に固執せず、アルプス山中への散灰や樹木葬を選ぶ人も増えています。 スイスは鉄道王国で、5380kmの鉄道網を擁し、鉄道移動距離は世界一です(日本は2位)。市街地にはトラムが走り、登山電車は120年以上の歴史があります。 ペットは家族として扱われ、犬の同伴は列車、レストラン、お店などどこでも当たり前で、人間と同じ扱いです。スイス国鉄には犬用定期券もあるそうです。 芸術面では、全国に980ヵ所の美術館や博物館があります。画家や建築家も多く輩出されています。音楽ではヨーデルが有名ですが、音を出すのは至難の業だそうです。 レザンは標高1300mに位置し、冷涼な空気と高い日照率から、かつて結核療養所が多く作られました。結核患者減少後はスキーリゾートや登山宿泊地となっています。
(12)スイス公文学園について
スイス公文学園は、公文公氏によって1990年にスイスのレザンに設立された、文部科学省認定の全寮制高等学校です。公文式学習を取り入れた学校ではないとのことです。日本の中学校を卒業した子供たちが対象で、修業年限は3年間です。設立当時は世界に12校のボーディングスクールが作られましたが、現在は5校のみだそうです。スイスにある世界的なボーディングスクールの一つとして紹介されています。 スイス公文学園の教育の柱は「国際感覚を養う」「バイリンガル教育」「寮生活を通じた人間的成長」です。世界に通じる人材育成を目指しています。英語での教育が中心ですが、国語、古典、日本史は日本語で行われます。教員の3分の2以上が世界各国からのネイティブです。 寮生活を通じて、生徒は親元を離れ「親離れ」を経験し、寝食を共にした仲間との絆を深めます。親にとっても子離れのチャンスであり、子供の可能性を信じて音信のないことを心配しないようにと伝えていたそうです。T先生にとって、スイス公文学園は最高の勤務場所であり、教育機関として誇りと愛情を持って務められていたことが伺えます。学園の子ども達との愛おしいエピソードも語られました。T先生の教育思想として、「まず国語の力をつけましょう。そうすれば両方が伸びていく」という点が印象に残ったという報告があります。卒業生からは、多様な考え方ができるようになった、行動してから考えることを大事にしているといったコメントがあったそうです。